New Sonic Arts : Granite / Vice / Nuance が今なお一線級である理由

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New Sonic Arts を知っているだろうか。Native Instruments の Maschine の開発に携わった James Walker-Hall が立ち上げたオーディオ・ソフトウェア・デベロッパーです。Granite、Vice、Nuance という3本のプラグインを世に送り出し、派手なマーケティングもなく、しかし着実にアップデートを続けてきました。KVR のフォーラムでは今なお「グラニュラーなら結局 Granite に戻ってくる」「スライサーは Vice がいちばんシンプル」といった趣旨の声が見られます。なぜ古いプラグインが使われ続けるのか ── 3本を並べると、その理由が見えてきます。

Granite ── 「壊して、作る」グラニュラーの入口

▲Granite(グラニット)は最先端のグラニュラー合成エンジンと直感的なモジュレーション機能を備えたシンセサイザー。サンプル音源から複雑に変化する幻想的なサウンドスケープを容易に生成できる

SF 的なプリセットから始まる旅

まず、初めて起動する人に伝えておきたいことがあります。Granite は起動した瞬間からプリセットの音が自動再生されます。繊維工場か何かを思わせるような音がいきなり鳴り出すので、最初はかなりびっくりします。慌てず、GATE スイッチをオンにすれば MIDI キーボードに主導権が移り、鍵盤を押したときだけ音が出るようになります。

落ち着いたら、プリセットをひとつひとつめくってみてください。SF 映画を思わせるような金属的で宇宙的なサウンドが多く並んでいます。Granite の初出は2011年。15年前のソフトらしい音色の偏りではありますが、それはそれで面白い。プリセットを鳴らしながら Space、Density、Pitch のノブをゆっくり回してみてください。

パラメーターと Motion Recorders ── シンプルさの中にある深み

主要なグレインパラメーターは、Space(グレイン間隔)、Density(密度・長さ)、Pitch(ピッチのランダム幅)、Pan(左右への広がり)など。これらはすべて「マクロパラメーター」として実装されており、ひとつのノブの裏で複数のパラメーターが連動して動きます。だから回した瞬間に気持ちいい音が出る。もちろん MIDI コントローラーのノブに Granite のパラメーターをアサインすることもできる。そうすればさらに直感的な音作りと演奏が可能になります。

▲Granite と Ableton Move を組み合わせて使用。Granite のパラメーターを Move のノブにアサインすることで、グラニュラーの世界をより直感的に堪能できる

そして各ノブの外側にはリングがあります。これをクリック&ドラッグすると、その動きがそのまま録音されます。これこそが Granite 最大のハイライト、Motion Recorders 機能です。手を離した瞬間から、その軌跡がループし続ける。Space のリングをゆったりとSカーブを描くようにドラッグして録音すれば、テクスチャーが呼吸するように膨張・収縮を繰り返します。LFO とは根本的に違う体験です。「自分の手の動き」がそのまま音になる──他のグラニュラーシンセにはないユニークな機能です。テクノのビルドアップでフロアの空気をゆっくり変えたいとき、Motion Recorders は本領を発揮します。

自分のサンプルを放り込む

プリセットで遊んだら、次は手持ちのサンプルを読み込んでみてください。シンセのパッドを入れて Density を上げると元の音が溶け出して別の何かに変わり始め、ボーカルチョップを入れれば人の声が宙を漂う粒の群れになる。自分のサンプルを入れた瞬間に、Granite は本当の意味で自分のツールになります。

ひとつ知っておきたい制約があります。最近のグラニュラーシンセの多くはテンポシンク機能を標準的に備えていますが、Granite はテンポシンクに対応していません。つまり DAW のテンポやグリッドに同期させた、リズミカルなグリッチ系の音作りには向いていないということです。あくまで自由なテクスチャー生成のためのツール、と割り切って使うのが正解です。

なお、2025年11月の v1.6931 アップデートで「grain-double-buffering」が実装され、グレイン切り替え時のクリックノイズやアーティファクトが低減されました。古いソフトと侮るなかれ、開発は今も続いています。

Vice ── ループを「楽器」に変えるスライサー

▲Vice(ヴァイス)はループ音源の切断と再構築に特化したスライス・サンプラー。高精度な自動スライスや各パートへの個別エフェクト設定、スムーズな MIDI 連携により直感的なトラック制作が可能

Vice は WAV・AIFF のループをスライスに分割し、MIDI キーボードで演奏できる楽器に変換するプラグインです。この種のソフトの元祖は Propellerhead(現 Reason Studios)の ReCycle で、2025年4月についに無料公開されました。「じゃあ Vice は要らないのでは?」と思うのは自然な疑問です。

答えから言うと、役割が根本的に違います。ReCycle はスタンドアロンアプリとして動き、ループをスライスして REX2 ファイルを書き出すツールです。DAW との行き来が必要で、スライスに個別の処理を加える機能もありません。Vice は DAW にプラグインとしてインサートしたまま音を確認しながら編集でき、各スライスに4つの FX スロットと個別のモジュレーションを持ちます。スライス1はローパスフィルターで丸め、スライス3はピッチを LFO で揺らす、といった処理がプラグイン内で完結します。スライスのオーディオファイルと MIDI はどちらもドラッグ&ドロップで DAW に直接展開できます。

一方で ReCycle には、スライスのテールを自然に延ばす独自の Stretch 機能があり、これは今も唯一無二です。とはいえ Vice 2 は REX2 のインポートに対応しているので、両者は競合ではなく、組み合わせて使えるツールと考えるのがいいでしょう。

ループを素材として「演奏する」という体験は、一度味わうとやめられません。ぜひオーディオスライスの楽しみを堪能してみてください。

なお、2026年4月の v2.1011 アップデートが公開されており、開発が今も続いていることが確認できます。

▲Vice と Ableton Live の MIDI 生成ツール「Patterns by Iftah」を組み合わせて使用。ドラムパターンを自動生成しながら、スライスのさまざまな可能性を手軽に試すことができる

Nuance ── ドラムキットを即席で組む、シンプルなサンプラー

▲Nuance(ニュアンス)は動作の軽さとシンプルなUIを追求したコンパクトなサンプラー。ドラッグ&ドロップによる素早いアサインやレイヤリングに対応し、快適なワークフローで効率的な音作りを行える

Nuance は実験的な音作りが可能なクリエイティブ・サンプラーです。前述の通り、開発者の James Walker-Hall は Maschine の開発に携わった人物で、UI のレイアウトや操作感にも Maschine や Battery との共通点を感じます。NI のエコシステムに慣れたユーザーなら馴染みやすいはずです。

ブラウザーからサンプルをまとめて Pad View にドラッグ&ドロップできるので、複数のサンプルをひとつのパッドに重ねる作業が驚くほど速く、意外性のある、厚みのあるサウンドが生まれる瞬間が楽しい。また Cycle をオンにするだけでラウンドロビン奏法になります。CPU への負荷も非常に軽く、複数立ち上げても動作が安定しています。

なお、2025年11月の v2.6 アップデートでマスターピッチ・ボリュームと出力メーターの追加、XML インポート/エクスポート対応、UI まわりの改善など実用的な強化が加えられています。

▲Nuance のレイヤー機能。ひとつのパッドに複数のサンプルを重ねることで、単体では出せない意外性、そして厚みのあるドラムサウンドを素早く構築できる

3本まとめて試すなら

3本を振り返ると、New Sonic Arts が今なお一線級である理由が見えてきます。Granite には他のグラニュラーシンセにはない Motion Recorders、Vice には DAW 内で完結するループ編集、Nuance には Maschine や Battery に慣れたユーザーが即座に使いこなせる操作感。3本に共通するのは「必要なことだけを、最高の形でやる」という設計哲学です。それが古くても使われ続ける理由だと思います。

マニュアルは薄く、情報も少ないので、ある程度は自分で試行錯誤しながら覚えていく必要があります。でもサポートはとても丁寧です。バグを報告したところ、次期バージョンで迅速に対応してもらえました。開発とサポートが今も続いているという事実は、購入を迷っている人への後押しになるはずです。

3本ともデモ版があり、ホワイトノイズや機能制限なしで試せます。まずは気軽に3本まとめて起動してみてください。それぞれに明確な個性があり、3本揃えることでトラック制作の可能性が一気に広がります。

小山幾生

東京とベルリンを拠点に活動するミュージシャン/音楽テックブロガー。エレクトロニック音楽とシンセサイザーを軸に制作と執筆を行い、機材レビューや音楽テック記事を手がける。両都市のクラブカルチャーを行き来しながら、現場感ある視点で音楽とテクノロジーの接点を綴る。

https://1ikkai.com/

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